たとえば、芽吹きの五月。
空は真っ青で、日の光がまぶしい。
芽吹きの谷を独り、ゆっくり歩いていく。思い出したように、谷の奥からやんわりと風が滑り落ちてくる。
かぐわしい森の香りが、鼻をくすぐる。
新緑の谷川は、煙るような淡い薄緑色にすっぽりと埋もれていった。こんな季節に、ロッドを振るのはぜいたくそのものだ。谷の湧き水でコーヒーを沸かすのもいい。
たまに幅広のヤマメが、ロッドの先を震わせる。こんな日には、一匹で十分だ。
そうそう、早春のヒカリ釣りを忘れていた。凍えるような寒さの中で、ナイフのようなきらめきが走る。なかなか釣れないヒカリだが、春の生命を宿したヒカリに、一目会えるだけで嬉しくなってくる。土手の日だまりには、もうフキノトウの芽も出ている。 |